​相続から3年以内 3000万円特別控除

空き家の譲渡所得3000万円の特別控除の特例

国土交通省が平成26年に実施した空家実態調査によると、周辺の生活環境に悪影響を及ぼし得るその他の住宅である空き家の約75%が旧耐震基準の下で建築されたものであり、また、平成25年における住宅の耐震化の進捗状況の推計値として国土交通省が平成27年6月に公表した数値を考慮すると、そのような空き家のうち約60%が耐震性のない建築物であると推計されています。

そこで平成28年度税制改正により、「相続等により取得した空き家を譲渡した場合の3,000万円特別控除」が創設されました。



1.被相続人が一人で住んでいた家を譲渡して3000万円特別控除

​相続によって取得した空き家を一人暮らしだった被相続人が死亡した日以後3年を経過した日の属する年の12月31日までに譲渡したときは、その空き家を譲渡して得た利益から3,000万円を控除できます。

①一人暮らしでなければならない

この特例は空き家をなくすことを目的にしていますので、被相続人が亡くなられた時点で一人暮らしの場合に限られます。

被相続人に同居者がいなかった場合に限り、亡くなられた方が住んでいた空き家とその敷地を相続された方が売却して利益を得た場合に、その利益から3,000万円の特別控除が認められます。

②対象は昭和56年5月31日以前に建築された建物に限る

対象は、被相続人の居住の用に供していた「昭和56年5月31日以前に建築された建物とその敷地」に限られます。区分所有建築物は除かれ、建物を壊して敷地のみを譲渡するか、建物について耐震基準を満たすように耐震リフォームをしてから譲渡しなければなりません。

もっとも、耐震基準を満たしている建物の場合にはそのまま譲渡しても特例が適用できます。

③相続から譲渡まで引き続き空き家でなければならない

相続した後、その家や家を取り壊した後の土地を事業の用、貸付けの用又は居住の用に供した場合には、この特例は適用できません。

あくまでも相続から譲渡まで引き続き空き家でなければならないのです。

「相続開始から譲渡まで空き家であったこと等」については、所在市区町村に状況に応じて売買契約書の写しや電気若しくはガスの閉栓証明書又は水道の使用廃止届出書、使用状況が分かる写真、固定資産税の課税明細書の写しなどを提出し、「被相続人居住用家屋等確認書」の交付を受けて、確定申告書に添付しなければなりません。


④平成31年4月1日以降の譲渡から老人ホーム等への入居者も適用対象に

平成31年度税制改正により、次に掲げる要件その他一定の要件を満たす場合に限り、相続の開始の直前においてその被相続人の居住の用に供されていたものとして本特例を適用できることとなりました。

この改正は、平成31年4月1日以後に行う被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋の敷地等の譲渡から適用されます。

○被相続人が老人ホーム等に入所をした時点において介護保険法に規定する要介護認定等を受け、かつ、相続の開始の直前まで老人ホーム等※1に入所をしていたこと。

○被相続人が老人ホーム等に入所をした時から相続の開始の直前まで、その家屋について、その者による一定の使用※2がなされ、かつ、事業の用、貸付けの用又はその者以外の者の居住の用に供されていたことがないこと。

※1 老人ホーム等とは、認知症対応型老人共同生活援助事業が行われる住居(いわゆるグループホーム)、養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、軽費老人ホーム、有料老人ホーム、介護老人保健施設、介護医療院、サービス付き高齢者向け住宅、障害者支援施設、障害者共同生活援助を行う住居をいいます。


※2 ここでいう一定の使用とは、被相続人居住用家屋が被相続人の居住の用に供されなくなった時から相続の開始の直前まで、引き続きその被相続人居住用家屋がその被相続人の物品の保管その他の用に供されていたことをいいます。


実務上、次のいずれかの書類による確認も必要となります。

1️⃣電気・水道・ガスの契約名義(支払人)及び使用中止日が確認できる書類

2️⃣老人ホーム等が保有する外出、外泊等の記録

3️⃣ 市区町村が認める者が家屋の管理を行っていたことの証明書

4️⃣ 不動産所得がないことを確認するための地方税の所得証明書等

<適用要件>

被相続人居住用家屋

相続開始直前に被相続人の居住用家屋であったこと

相続開始直前に被相続人以外の居住者がいなかったこと

昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること(区分所有建築物を除く)

土地等

相続開始直前において「被相続人居住用家屋」の敷地の用に供されていた土地等

対象者

相続により「被相続人居住用家屋」及びその敷地の用に供された土地等を取得した個人

適用期間

平成28年4月1日から令和5年12月31日までの譲渡

譲渡期限

相続の時から相続開始日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの譲渡

譲渡対価限度額 

対価限度額譲渡対価の額が1億円を超えるものを除く

2.譲渡対価が1億円を超えるものは適用されない

建物及び土地の合計譲渡価額が 1億円を超えるものについては、特例が適用されないこととされています。もちろん2回以上に分けて売却した場合には通算して1億円超かどうかが判定されます。また、共有者がいる場合には、その合計金額で判定されます。

①共同相続人が時期を違えて譲渡等した場合

譲渡対価の額が 1億円を超えるかどうかは、相続人が共同で被相続人居住用家屋とその敷地を相続し、その後、時期を前後して各相続人がこれらの資産を譲渡した場合などには、相続開始の日から最初に譲渡をした日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの譲渡を合計して1億円以下かどうかを判定することになります。

<譲渡対価が1億円を超えるかどうかの判定期間の例>

②適用前譲渡及び譲渡の期間内に贈与や定額譲渡があった場合

この譲渡には贈与及び低額譲渡が含まれますので、相続開始の日から譲渡をした日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までに贈与等があった場合には、贈与時の価額又は低額譲渡時の価額を加算して1億円を超えるかどうかを判定することになります。本制度の適用を受けた場合は、対象資産の譲渡と前後する贈与や低額譲渡について、期間内の合計価額が1億円を超えないように留意する必要があります。


3.被相続人との共有物件の場合

空き家に係る譲渡所得の3,000万円特別控除の特例は、相続又は遺贈(死因贈与を含みます。)によって取得した被相続人居住用家屋とその敷地について適用があります。被相続人居住用家屋とその敷地のうち、相続人が被相続人の相続開始前にすでに共有によって所有している相続人所有部分については、この特例の適用はありません。

4.譲渡所得の相続税の取得費加算の特例と選択適用

相続した土地等を相続税の申告期限の翌日から3年を経過する日までに譲渡した場合には、相続税額の一部を取得費に加算して譲渡所得を計算することができる特例がありますが、「空き家に係る譲渡所得の3,000万円特別控除の特例」はこの特例との選択適用となります。この「譲渡所得の相続税の取得費加算の特例」は、取得費に加算できる相続税額が、相続によって取得した財産を譲渡した者が納付すべき相続税額に相続によって取得した財産価額の合計額に占める譲渡した財産価額の割合を乗じた額となりますので、多くの場合が「空き家に係る譲渡所得の3,000万円特別控除の特例」の適用を受けたほうが有利になると考えられます。一方で、相続によって財産を取得した人の相続税額が3,000万円を超える場合であれば、例えば、相続した財産のすべてが被相続人居住用家屋とその敷地で、そのすべてを譲渡したときには、譲渡所得の相続税の取得費加算の特例を選択した方が有利になります。譲渡所得の相続税の取得費加算の特例を選択した方が有利になる場合は、次の条件を満たす場合でしょう。

①相続によって財産を所得した人の相続税額が3000万円を超えていること

②相続によって財産を所得した人の相続税額 × 譲渡した財産(被相続人居住用建物及びその敷地など)の価額 / 相続によって取得した財産価額の合計額 > 3000万円

5.相続税「小規模宅地等の課税価格の特例」との適用関係

被相続人の居住用家屋の敷地を相続する場合、特定居住用宅地等については、相続税の課税価格から面積330㎡までその評価額の80%を減額できる特例(「小規模宅地等の課税価格の特例」)があります。被相続人の居住用家屋が相続後に空き家となった場合であっても、次の2つの要件を満たせば、この特例の適用が受けられます。

①被相続人に配偶者又は相続開始直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋に居住していた親族でその被相続人の相続人がいないこと

②相続人(取得者)が相続開始前3年以内に日本国内にある自己又はその配偶者、その者の3親等内の親族・同族会社・一般社団法人等が所有する家屋に居住したことがなく、かつ、相続開始時に居住していた家屋を(相続前に)所有していたことがないこと

このような場合、小規模宅地等の課税価格の特例の適用を受けた上で、空き家に係る譲渡所得の3,000万円特別控除の特例の適用を受けることもできます。

ただし、小規模宅地等の課税価格の特例においては、その宅地等を相続税の申告期限(相続から10か月以内)まで所有していることが要件とされていますので、相続してすぐに譲渡しないようご注意ください。

6.他の特例との適用関係

居住用財産の譲渡所得の3,000万円特別控除の特例の適用を受けた場合、その年、その翌年及びその翌々年に特定居住用財産の買換え特例、居住用財産の買換えの場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除、特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除、住宅ローン控除の適用を受けることができません。しかし、空き家に係る譲渡所得の3,000万円特別控除の特例の適用を受けてもこれらの制限は課されないこととされています。ただし、同一年内に居住用財産の譲渡所得の3,000万円特別控除の特例を併用する場合に限り、2つの特例を合わせて3,000万円が控除限度額となりますのでご注意ください。

7.適用時期

この特例は平成28年4月1日から令和5年12月31日までの譲渡に適用すること

としており、相続の時から相続開始日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までが譲渡期限とされます。


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